ビジネスストーリー
ソルト物語
その銀行が選んだのは、大手でも系列でもない。
小さなソフトウェア開発会社「ソルト」でした。
コンペに臨む
手探りで始まった大型システム
構築のご提案
「今度、うちの会社で新予算査定システムの製作の話があるんだけど、提案してみたらどう?」 某銀行の関係者の方がソルトの社長にそんな声をかけてくださったのが、このストーリーの発端です。聞けば、競合相手は名だたる大手や先様のグループ系列会社など数社。一方、ソルトは当時、まだ汎用系の仕事が主流で、大規模な社内システムの構築は手探りの状態。どんなに頑張ったところで勝ち目はない……かのように見えました。しかし、何か突破口があるのではないか。そんな思いを胸に、ソルトはまず先様の総務の方や、この業務に詳しい方に話を伺いながら情報を集めることから始めました。
「他社と逆転の発想」が
ソルトの戦略
次にソルトが着目したのが、先様の企業体質である「お金を使うことにシビアである」点です。銀行というところは、小さなお金が動くときでも、きちんと稟議を通さなければなりません。今回のシステム導入に際しては新規の設備投資が望ましかったのですが、大金が動くとなればそれ相応の障害が立ちはだかることも覚悟しなければなりません。そこでソルトは考えました。「先様の既存の設備を使って運用できるものを作ろう。たとえ、マシンパワーが足りなかろうとも」。
今よりパソコンの普及率が低い時代のことです。ハイスペックでない既存の設備を使うことが、のちに我々自身をどれだけ苦しめることになるか、そのときの私たちには知る由もありませんでした。ただ、お客様の視点に立てば、「手持ちのパソコンが使える」のは有り難いことに違いない。それだけは確信していました。他の競合会社、特に大手会社がシステムの提案と同時に、それに付随する形で自社製品を売り込む姿勢を見せたのとは明らかに対照的でした。ソルトは、他社とは「逆転の発想」でコンペに臨んだのです。
そして、勝利の女神は
ソルトに微笑んだ
巨額の新規コンピュータ導入も含めた大型提案を行った大手企業。系列だからという理由でお付き合い的提案を行ったグループ会社。顧客の立場で考え、既存の設備を使って低コストでの運用を提案したソルト。このコンペの成り行きを眺めていた勝利の女神は、最後にソルトに微笑んだのです。システム開発は、ソルトにご発注いただくことになりました。
ソルトのもうひとつの勝因として、この仕事に対してソルトの会社の規模が適正とご判断いただいた可能性があります。システム開発は、自社のパソコンで作って納品してしまえばそれで終わりではありません。開発の段階から先様とコミュニケーションを密にとり、先様の要望や不満を逐一システムに反映させなければなりません。さらに、納品後に何らかの問題が起これば、即座に対応が求められます。そうした点での当社の、小規模ゆえのフットワークの軽さも評価に値したと思われます。
開発期間は10ヶ月、専任は3名でのスタートでした。しかし、実作業に取りかかってみると、予想以上の困難が私たちを待ち受けていました。
開発秘話
仕事を勝ち取った
喜びもつかの間
「仕事を勝ち取った喜びに酔いしれる間もなく、私たち専任SEは作業に取りかかりました。なんといっても苦労したのは、システムの開発にあたって既存の設備を使用するという大前提があったことです。私が当時使っていたノートパソコンで10分かからない処理が、先様の機械では2時間かかることも。もちろんマシンスペックを上げれば回避できる問題ですが、それができないわけです。そのためにロジックをひとつひとつ詰めて、分からないことがあればMicrosoft社に問い合わせたり、分厚い専門書で調べたりと、毎日が勉強の連続でした。おかげでノウハウはもちろん、技術としても新しいものが身に付きましたね」
学んだのはユーザーの視点に
立つことの大切さ
「先様の要求は大変シビアでした。この仕事に関して総務の方とやりとりをさせていただいたのですが、私たちは実際の業務に関しては素人ですから、作れば作るほど先様との食い違いが出てしまうのです。『ここの機能が違う』から『文字の色が違う』まで要望は多種多様でした。私はシステム屋ですから、どうしてもシステマティックな考え方に偏りがちになるのですが、それではユーザーインターフェイスから離れてしまう。そんなことから、コミュニケーションがうまくとれなかったこともありました。しかし、ご担当者が休日に時間を作って話を聞いてくださったりなど、先様の協力を得られたことは励みになりました。SEは、技術があることに加えて、お客様とのコミュニケーション能力や業務に対する理解度、ユーザーの視点に立てることが重要なのです。私自身、この仕事を通じて、そうした能力が身に付いたと感じています」
「業務が楽になった」の声が
何よりの喜び
「当初、3名の専任がこのシステムの開発に携わっていましたが、諸々の問題からスケジュールが遅れ、最後の3ヶ月間は休みもままならず、息絶え絶えの状態でした。そうした様子を見かねた他のプロジェクトの社員が、自分たちの仕事を終えた後に本社に集まり、うまくいかない部分の相談にのってくれたのです。それぞれ自分が得意とするネットワークやデータベースなどの分野でノウハウを提供してくれたおかげで、徐々に問題を解決していくことができました。これは本当にありがたかったですね。最終的にはのべ10人くらいが関わったでしょうか。社長にも陰からサポートしてもらい、会社にもいい一体感が生まれました。他の会社ではなかなかこうはいかないと思います。こうして無事納期に、完成したシステムを納品することができました。できあがった時には達成感と開放感が入り交じって涙が出ましたよ
「その後、先様から『業務が楽になった』と声をかけていただいて、それが一番うれしかったですね。また、実際にシステムが動き出してから大きなトラブルがなかったことは、自分にとって大きな自信につながりました。開発から数年経ちますが、いまでもお問い合わせいただくと、専門分野以外のことでもパッとわかります」
その後のソルト
会社も個々の社員も確実に
ステップアップ
この仕事を通じて、ソルトという会社も個々の社員も次のステージに昇りました。仕事に対して厳しさを要求される金融関係のシステム開発においては、細かいところでも手を抜けば必ずしっぺ返しを受けることが骨身にしみたので、関わった社員全員にとって大変いい勉強になりました。また、チームワークの大切さが社内に浸透したことも収穫だったといえるでしょう。それぞれが自分の仕事を抱えながら、協力しあって仕事を進めたのは貴重な経験でした。会社全体としても、新たな業務に挑戦し、また成功したことは自信につながりました。ソルトのような小さな会社が大手各社や関連会社を抑えて受注させていただいた経緯は、今でも会社として誇りに思うところです。
開発したシステムが
他行でも採用に
Y信託銀行で当社のシステムが好評ということを受けて、続く銀行再編の流れの中で他行との統合の際に、最大手のM信託銀行での採用も決定しました。このことは私たちの仕事を評価していただいた結果と解釈しています。少しでもシステムの動作や顧客サービスに不満点があると、そうはいきませんから。こうして信頼がさらなる信頼を生み、経験が自信を生む。人間のふれあいと成長が創り出すHuman Technologyをコンセプトに掲げ、ソルトはこれからも成長していきます。